犬の胆嚢粘液嚢腫と肝硬変

ご紹介する症例は10歳のトイプードルの男の子です。血液検査で肝臓に異常値が見つかり、超音波検査を行いました。

正常な胆嚢は左の写真のように黒く抜けて見えますが、症例(写真右)は内部がギザギザして見えます。これは胆嚢粘液嚢腫という状態で中〜高齢犬に時折みられます。食欲不振や嘔吐などの症状が認められる場合もあれば、今回のように偶然見つかるケースもあります。この状態の胆嚢は脆く、破裂による急性腹膜炎を起こし死に至る事もあるため、胆嚢を摘出することが推奨されています。

この症例はしばらく内科的に治療をしておりましたが改善がなく、ご家族と相談のうえ、胆嚢破裂のリスク回避肝臓の組織生検のために開腹手術を行うことになりました。

写真は開腹時のものです。

硬くなった胆嚢と、肝臓表面には多数の結節が認められました。

 

摘出した胆嚢です。内部には緑黒色の粘液状物質が貯留しており、病理検査でも胆嚢粘液嚢腫と診断されました。

肝臓は一部採取し、確定診断のため病理組織検査を行いました。

肝臓の病理診断は肝硬変でした(写真)。これは肝臓疾患が進行した末期的な状態と考えられています。

 

今回の症例は血液検査の異常から画像検査を行い、精査を行った事で症状が出る前に診断がつきました。しかし、一般的には肝臓機能の75%以上が喪失した末期にならないと肝臓病の症状は出ないと言われており、それ故に肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれています。このワンちゃんは幸い早めに診断がつき、現在は内服治療を行い元気に過ごしています。

健康診断などで肝臓の異常値がみつかる事は多々ありますが、今回のように肝臓病の確定診断を出すためには麻酔と手術が必要になるため、肝臓病の診断は簡単には出来ません。そのため、慎重な経過観察と画像診断による評価がとても重要となります。

肝臓は「沈黙の臓器」ですから、もし異常値がみつかったら症状が無いという事で楽観視せず、獣医師に相談されると良いと思います。