肺がんは人と同じように動物にも稀に認められる病気です。家族が気づく最初の症状としては、空咳や呼吸困難、活力の低下などが挙げられます。しかしながら、症状がみられた場合は癌が進行している状態と考えられ、症状がない場合の予後は平均18ヶ月であるのに対して、症状がある場合は8ヶ月と報告されています。また、初期に発見されれば手術により根治が期待できますが、胸水が溜まったり、転移した状態で発見されると有効な治療法がないため、定期的な健康診断で早期発見することが重要な病気です。
症例1 犬の肺腺癌
症例1は9歳のチベタンスパニエルのワンちゃんで、軽い咳がみられるとの事で、健康診断も兼ねて来院しました。
レントゲンを撮影すると上記の写真のように、心臓と同じ程の大きさの腫瘍が認められました。これほど大きな腫瘍が出来ているにも関わらず、症状は軽い咳しかなく、犬は元気に過ごしていました。非常に恐ろしい病気です。家族の方も大変なショックを受けておられました。CT検査の結果、明らかな転移はなかったので手術に至りました。
腫瘍は肋骨をはずさないと摘出できないほど巨大でしたが、何とか切除することができました。残念ながら根治には至りませんでしたが、抗癌剤治療も併用し、家族と半年間一緒に過ごす事ができました。
症例2 猫の肺腺癌
症例2は8歳のアメリカンショートヘアです。慢性下痢の精査のため、健康診断も兼ねてレントゲンを撮影したところ肺の腫瘍が偶然みつかりました。
猫の肺腺癌は転移率が高く、多くが診断時に転移していたり、術後間も無く転移が発生することが知られています。また、肺指症候群といって、指への転移によって跛行がみられる事があり、跛行を主訴に来院し肺癌がみつかるケースもあります。いずれにしても、初期には症状がみられないため、定期的に健康診断をうけることが重要です。
症例2は早期に診断されたため、転移もなく、手術に至りました。病理学的検査では肺腺癌と診断され、再発や転移が心配されましたが、術後3年現在も問題なく元気に過ごしています。
症例3 犬の胸腺腫
症例3は14歳の雑種犬で、高齢のせいか何となく元気ないとの主訴で来院しました。
検査の結果、胸腺という心臓の頭側にある組織が腫瘍化していることが分かりました。写真のように心臓の横に白い影があり、診断時点でかなり大きい事が分かります。
他の症例と同様に咳などの明らかな症状はなく、レントゲン検査で見つかりました。胸腺腫は巨大化することも多く、進行すると巨大食道症など腫瘍に関連した様々な症状を出すので早期の治療が望まれます。本例は診断後、大学病院で手術を行ってもらいました。
レントゲンや超音波検査が大切です
上記のいずれの症例も診断時にはほとんど症状がなく、偶然発見されたケースです。
一般的に健康診断では血液検査や身体検査までは時間もかからず、比較的安価に行うことができる点でメリットが大きいのですが、『がん』の検出はほとんど困難です。今回ご紹介した肺癌以外にも肝臓や脾臓などの臓器に発生する腫瘍は、血液検査で異常が出てくる場合は相当進行している可能性があります。
そのため、当院では5歳くらいから、年に1〜2回の画像検査を含めた健康診断をおすすめしています。レントゲンや超音波検査を詳細に行うには時間がかかりますので、検査をご希望の場合は事前予約をお願いいたします。