犬の頸部椎間板ヘルニア

頚椎の椎間板が突出して、脊髄を圧迫する病気です。症状の程度によりグレード分類されています。

グレード1の軽症例では抱き上げる時に鳴く、どこか分からないが痛がるなどの症状がみられます。痛みのレベルが強いと活動性が低下することもあります。

グレード2足のふらつきなど神経学的な異常がみられます。

グレード3起立困難四肢の麻痺など重度の神経学的異常がみられます。

写真のわんちゃんは前後の足が前に突っ張り、起立困難な状態です。


診断について

動物病院では、『どこか分からないが痛そうにしている』といった症状で来院されるケースが多いのですが、動物は自覚症状を教えてくれないため診断が難しく、詳細な触診で異常部位を見つけることが重要です。

触診や神経学的検査で椎間板ヘルニアが疑われた場合、当院では脊髄造影検査で診断を行っています。他の疾患が疑われる場合にはMRI検査を紹介する場合もあります。

脊髄造影検査は古典的な検査法で、技術を要しますが、MRIのような高度な医療設備がなくても診断が可能な点で有益な検査です。


治療について

椎間板ヘルニアは厳密な運動制限や鎮痛薬の使用で症状が緩和され、自然に治癒する場合もあります(保存療法)。しかしながら、強い痛みや麻痺が改善しない場合は手術が適応となります。

通常、手術は頚椎の腹側減圧術(ベントラル・スロット)を行います(写真)。ほとんどの症例で術後1〜2週のうちに劇的な改善がみられます。

頸部の椎間板ヘルニアは脊髄障害による呼吸筋麻痺など重篤な合併症を伴う場合があり、最悪の場合死亡することもあり得ます。そのため、当院では頸部の椎間板ヘルニアが疑われた場合、症状や経過にもよりますが、まずは運動制限で経過をみるようにしています。


実際の症状

症例1はフレンチブルドッグの男の子です。突然歩けなくなったとの主訴で来院されました。動画は手術翌日のものですが、この時点で手術前よりは立てるようになっています。

症例2はマルチーズですが、やはり四肢の麻痺で立てない、強い痛みがある様子です。

これらの症例はグレード3の頸部椎間板ヘルニアの典型例ですが、ここまで重症でなくても抱き上げる時の痛みや、時々前足を挙上するなどの症状が見られたら、頸部の椎間板ヘルニアかもしれません。

下の動画は症例2の術後10日後の様子です。元気に走れるくらい回復しました。