猫の消化器型リンパ腫(胃腸管型、大細胞性、抗がん剤)

リンパ腫とは、免疫細胞の一つであるリンパ球が腫瘍化する疾患です。リンパ節や胸腺などのリンパ系組織の他、鼻腔内、消化管、脳神経、皮膚など全身のどこにでも発生する可能性があります。

以前は猫白血病ウイルスに関連してリンパ系組織に発生するケースが多くみられましたが、近年では消化器型リンパ腫が増加しています

今回は猫の消化器型リンパ腫の症状や診断、治療についてご紹介します。


症状

猫の消化器型リンパ腫は細胞形態によって、大細胞性リンパ腫小細胞性リンパ腫に分類されます。どちらも症状としては体重減少、嘔吐や下痢、食欲不振が挙げられます。小細胞性リンパ腫(低グレード)の場合には症状が半年以上前から慢性的にみられているケースが多く、慢性腸炎との見分けが難しくなります。一方、大細胞性リンパ腫(高グレード)の場合には数日から数週間のうちに急速に症状が悪化してきます。


診断

診断には血液検査やレントゲン検査、超音波検査など全身のスクリーニング検査が必要で、明らかな病変が認められた場合には生検を試みます。ここまでの検査は全身麻酔の必要はありません。

しかしながら、胃腸粘膜に限局した病変の場合には、画像検査で異常が検出できない事や、異常があってもサンプルの採取が難しい場合も多く、確定診断のために内視鏡検査あるいは開腹下での生検が必要になります。


治療

リンパ腫は難治性の病気の一つであり、治療を始める際には根治を目指していくのか、緩和的なケアでなるべく苦痛を減らしていくようにするのか、ご家族と相談のうえ方針を決めていきます。根治を目指す場合には、抗がん剤治療が必要です。


当院での治療例

症例は6歳の猫ちゃんです。1週間以上嘔吐を繰り返し、他院での治療に反応しないため当院を受診されました。

レントゲン検査、腹部超音波検査にて幽門粘膜の肥厚とリンパ節の腫大が認められ、確定診断のため内視鏡検査を実施しました。

内視鏡検査では胃体部から幽門にかけて粘膜の不整と胃潰瘍、出血を認めました。


専用の鉗子を用いてサンプルを採取し、病理組織検査を行ったところ「び慢性大細胞性B細胞性リンパ腫」と診断されました。


リンパ腫に対する治療薬にはステロイドをはじめ、Lアスパラギナーゼビンクリスチンドキソルビシンエンドキサンなどの抗がん剤が存在します。

一般的には副作用の発現を減らし、より治療効果を発揮させるために、多剤併用プロトコールを用いて治療を行います。

様々なプロトコールが提唱されていますが、本例はノースカロライナ州立大学(NCSU)変更型プロトコールを実施しました。

また、猫ちゃん達は薬を飲ませる事が大変なうえに、食欲の低下による治療の中止を避けるため、事前に胃瘻チューブ(PEG)を設置しました。


まとめ

大細胞性のリンパ腫は悪性度が高く、治療が困難なケースが多いですが、今回の猫ちゃんは発症後1年経っても再発なく元気に過ごしております。このようなケースは多くはありませんが、リンパ腫と診断されても諦めずに治療することの大切さを改めて感じさせてもらえる症例でした。

また、今回は取り上げませんでしたが、小細胞性(高分化型)胃腸管リンパ腫は、慢性腸炎との鑑別が難しく、リンパ腫と気づかれずに繰り返し胃腸炎の治療をされ、発見が遅れることがあります。繰り返す胃腸炎症状が認められる場合にはお早めにご相談下さい。