慢性的な便秘・排便障害が続くことにより、結腸(大腸)の運動性が低下し持続的に拡張してしまった病態を巨大結腸症といいます。
症状は排便困難だけでなく、しぶりや血便、食欲不振、嘔吐などがあります。重度になると腸内で有害なガスが発生し、それが腸管から吸収されると全身状態が悪化していきます。
原因
巨大結腸症の原因は、結腸自体の機能障害による特発性(原因不明)と骨盤狭窄や腫瘍などの他要因による便秘から二次的に起こる続発性が挙げられます。
その他に不適切なトイレ・食事環境、ストレス、肥満、加齢による筋力低下・関節炎などが原因として考えられます。
診断
レントゲン検査にて結腸の幅が第7腰椎の長さの1.5倍以上拡張している場合に巨大結腸症と診断します。そのため巨大結腸症の診断は比較的容易です。
しかし、どのような原因でも便秘が進行すれば巨大結腸症となってしまうため、血液検査や画像検査など幅広く検査を行い便秘の原因を明らかにする必要があります。
治療(急性期治療・処置)
- 浣腸:肛門からカテーテルを挿入し、そこから浣腸液を注入し便を軟らかくして排泄させます。1回の浣腸では排便しきれないことも多く、その場合は繰り返し行なう必要があります。
- 摘便:浣腸で排便させられない場合には指を使い硬くなった便をかき出します。この処置には痛みが伴うので鎮静や麻酔が必要になることがほとんどです。また肥満体型であったり骨盤狭窄がある場合には用手摘便が困難となります。
治療(食事管理・内科治療)
猫ちゃんは投薬が苦手な子が多く、巨大結腸症は生涯にわたる管理が必要となるため毎日無理なく続けることが重要です。そのため、日常的なケアとして食事管理が第一選択となります。便秘対策用の療法食や可用性繊維のサプリメントを使用します。
また、緩下剤を内服し、便を軟らかくすることで便秘症状を和らげます。しかし、緩下剤単独での効果は少なく、食事療法と併用することが大事です。緩下剤以外にも整腸剤で消化管運動を改善させることで排便を促します。
治療(外科手術)
維持療法で排便のコントロールができない場合は浣腸や用手摘便を頻回に繰り返さなければなりません。また猫の体格(肥満)や性格によっては毎回麻酔をかけなければならず負担が大きくなります。そのような場合は外科療法の適応になります。
外科療法としては、膨張した結腸を取り除く結腸切除術(結腸亜全摘術、サブトータル結腸切除術)が行われます。術後は下痢や軟便が起こりやすく生涯軟便傾向になることもありますが、その多くは生活の質を脅かす程度ではありません。
当院での治療例
雑種猫、4歳、去勢雄
本症例は2歳頃から便秘の症状が出始めました。
最初のうちは療法食や下剤・胃腸薬による内科治療を中心にして、便秘が酷い時には浣腸の処置を行なってきました。
しかし4歳になる頃から内科治療ではコントロールがきかなくなり、月に1回の用手摘便と浣腸が必要になりました。処置には毎回鎮静が必要でしたので、体への負担や若齢であることを考慮し飼い主様と相談の末、結腸亜全摘出術を行ないました。
術後1カ月は下痢が続きましたが、その後は便通も良く問題なく生活できています。
飼い主様へのアドバイス
猫の便秘の原因には生活環境も大きく関わっています。特に寒い時期には飲水量や運動量が低下するため便秘が多くみられるようになります。以下のことに注意して便秘の予防をしましょう。
- 飲水量:寒くなると飲水量が減り、便が硬くなりやすくなります
- 運動量:運動不足による腸の機能低下や肥満もリスク要因になります。
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トイレ環境
- 個数:多頭飼いの場合は猫の数+1が適切とされています
- 大きさ:体にピッタリのサイズよりも1.5~2倍程の物が良いとされています
- 清潔さ:猫はキレイ好きのため、トイレが汚いと排便を我慢し便秘の原因になります
今回の症例紹介は青木先生が担当しました。
当院に勤務して5年以上になり、多くの飼い主様に愛されております。今後ともよろしくお願いします。